1. 銘酒市川 店主市川祐一郎の「晩ごはん」が楽しみ【その1 日本酒】

ちょっと大人の酒談義


連載コラム「銘酒市川 店主市川祐一郎の 晩ごはんが楽しみ」


【その1 日本酒】
静岡新聞社 しずおかのビジネス情報誌 「Vega」 2003 VOL71 p63 掲載
 私の楽しみはなんといっても、家族みんなでワイワイと食べる「晩ごはん」。店舗兼住宅の小さな酒屋を営んでいるため、1日の大半はお店にいる。だから夕方、母か家内が台所に立って、夕げの支度を始めるのが分かる。コトコト聞こえてきだすと、もううれしくなってくる。台所から出てきたところをつかまえて、「今日のおかずはなあに?」と聞く。

 今晩の「おかず」を聞き出し「お酒は何にしようかなあ?」とあれこれ思考を巡らす。至福の時間だ。「このおかずは日本酒かな?ワインも合うかな?でも最初はビールだよな」などと考えながら、今夜のお酒を選び出す。おかずとお酒が見事ばっちり合ったらもう最高!杯が進んで進んでいい気分である。酒屋なので、当然のことながら、お酒には事欠かない。まさに酒屋冥利とはこのこと。酒屋に生まれてよかった!と思う瞬間である。

 我が家の献立は魚と野菜を使った和食が多い。由比漁港が近くにあるためか、町内の魚屋さんで買う魚は本当においしい。また、家内の母から手塩にかけて育てた野菜たちをよくもらう。これまたうまいのだ。先だっても肉厚で甘い、まさに”絶品”の「ほうれん草」を”おひたし”でいただいた。こうなれば当然、日本酒をチョイスすることになる。私のお気に入りは「喜久酔 特別純米」。料理を引き立て、おいしく食べさせてくれるのがなんともうれしい。まさに”幸せの酒”。「和食にはやはり日本酒だなあ!」実感である。

 最近とみに「日本酒ってスゴい飲みものだよなあ!」ってつくづく思う。そのスゴさは一言で言うと、”幅広く楽しめるオールマイティーなお酒”であるということだ。まずは「温度帯」で楽しめ、「熟成」で楽しめ、さらに「器(酒器)」でも楽しめる。

 まずは「温度帯」。
日本酒はなんといっても冷やしてよし・常温(ヒヤ)でよし・お燗につけてもよし。実にいろいろな温度帯で飲める季節を問わないお酒である。お燗なら「人肌(ぬる燗)」から「熱燗」まで。冷たくするなら、キーンと冷えた状態から常温になりかけまでの温度帯でも楽しめる。これは私の体験上感じることだが、特に常温で飲む場合はいったん冷やしてから常温に戻すと、そのまま飲むより、かなり旨くなる。

 また個々のお酒の旨味を一番引き出してくれる、いわゆる飲み頃の温度帯を見つけることによって、お酒がより身近に感じられるようになり、蔵元さんがそのお酒のどこをアピールしたいのかがなんとなく見えてくる。

次に「熟成」。
出来たての「しぼりたて」の新酒からひと夏越してして登場する「ひやおろし」、冬に造ったお酒が年を越し秋になると酒質が向上し美味しくなる「秋上がり」、そして2年以上も熟成させた「古酒」まで。封を切ったばかりのお酒、1時間後の同じお酒、翌日の、3日後の、一週間後の・・・等、時間の経過とともに変化していく微妙な味を楽しむことができる。

最後に「器(酒器)」。
びんから直接注がないで、いったん”片口”に移してから呑んでみよう。このちょっとの作業をすることによって、なんとなくおいしくなったと感じるから不思議だ。今度はどの”ぐい飲み”で飲もうかなあ?なんて考えるのも楽しい。「同じワインだが、バカラのワイングラスで飲んだほうが、普通のワイングラスで飲むより遙かに美味しい。」とあるワイン評論家が言っていた言葉を思い出す。

おまけ
大吟醸など生酒はお燗をしてはいけないという”いいつたえ”(?)がある。熱燗ではちょっとムリがあると思うが、「ぬる燗」くらいにしてみると、想像もつかないほどのおいしさの発見がある。今流行の「まいうー」って叫びたいような!ぜひ、チャレンジしてみてはいかが!まさに日本酒は豊かな自然の恵みと日本人の知恵の結晶である。

さて明日のおかずは何かなあ?

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